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高松高等裁判所 昭和42年(行ケ)4号 判決 1968年6月14日

原告 阿部良隆 外三六名

被告 徳島県選挙管理委員会

主文

原告らの請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

原告ら訴訟代理人らは審査申立人田中寛一外一〇名から昭和四二年六月一五日付を以て、同宮城庄三郎から同年同月二四日付を以て、同児島義行から同年同月二〇日付を以てなされた昭和四二年四月二八日執行の徳島市議会議員一般選挙の効力に関する各審査申立につき、被告徳島県選挙管理委員会が同年八月一四日なした裁決は何れもこれを取消す、との判決を、予備的に(一)右と同旨並びに(二)昭和四二年四月二八日執行の徳島市議会議員一般選挙における選挙の効力に関する異議の申出に対し、徳島市選挙管理委員会が昭和四二年六月三日付でなした棄却の決定を取消す、(三)昭和四二年四月二八日執行の徳島市議会議員一般選挙の内第一開票区に関する部分を無効とする。但し山田重則、松本弘、鈴江里一、戸川学、板東亀三郎、岡山明義、吉川隆茂、三木猛、広瀬豊、山瀬博、北仁市、武知清、舟越縫夫、国久嘉計、佐野明、楠才之丈、坂井積、豊田正雄、阿部良隆、吉崎儀一、三木定太郎、植木理、小山章二、清勇正直、梶原勝美、小倉祐輔、蓮田貞一、坂東利一、吉永平次郎、鶴岡芳夫、吉本幸、高瀬豊市、藤井二男、武田良雄、出口幸夫、井関俊、米津弘徳、平野嘉幸、佐々木直太郎、丸岡富治、中村正信、米沢勝太郎、中野栄吉は当選を失わない。との判決を求め、被告代理人らは原告らの各請求を棄却する、との判決を求めた。

原告ら訴訟代理人らは請求原因として次のとおり述べた。

一  原告らは昭和四二年四月二八日執行の徳島市議会議員一般選挙においていずれも当選人と決定されたものである。

二  被告委員会は審査申立人田中寛一外一〇名から昭和四二年六月一五日付で、同宮城庄三郎から同年同月二四日付で、同児島義行から同年同月二〇日付でなされた前記選挙の効力に関する各審査申立について同年八月一四日左記のとおりの各裁決をなし、同年同月一九日これを告示した。

昭和四二年四月二八日執行の徳島市議会議員一般選挙における選挙の効力に関する異議の申出に対し、徳島市選挙管理委員会が同年六月三日付でなした棄却の決定を取消す、右選挙のうち第一開票区に関する部分を無効とする。

三、被告委員会のなした裁決理由の要旨は次のとおりである。

当委員会は、申立ての事項について調査したところ、本件選挙の当日、徳島市役所本館内の一階に設けられた第一開票区に属する内町第一投票所の一〇投票記載台のうち、一番北側の投票記載台(以下「当該記載台」という)に午前七時から午前一一時二〇分ごろまで、前回選挙における候補者の氏名等が掲示されていたこと及びこの間に内町第一投票区における選挙当日の有権者数三、九九一人のうち一、一八〇人が投票済みであつたことを確認した。

このなかには、法第一七五条の二の規定に違反する次のような事実が存在する。

1、本件選挙の候補者七〇人のうち、次の者(三九人)の氏名が脱落していたこと。

2、本件選挙の候補者七〇人のうち、次の者(一一人)の所属党派が誤つて掲示されていたこと。

3、本件選挙の候補者でない者(前回選挙における候補者で、本件選挙においては立候補していない者二三人)の氏名等が次のとおり掲示されていたこと。

4、氏名等の掲示の順序は、本件選挙における開票区ごとにくじで定められた順序とことごとく異なつていたこと。

(中略)

………そこで、前述のように法第一七五条の二の規定に違反する事実が明らかである以上この規定違反によつて選挙の結果に異動を及ぼすかどうかを判断すると、本件選挙における投票総数一一五、二五一票のうち、最下位当選人杉乙巳の得票数は、一、五七五票、最上位落選人宮城庄三郎の得票数は一、五七四票で、その差わずか一票に過ぎないことを考慮すれば、このような規定違反がなかつたならば、本件選挙の結果、すなわち、候補者の得票に影響を及ぼし、現実に生じた結果と異なる結果を生じる可能性のあることを否定することはできない。このような可能性のある限り、法第二〇五条第一項の規定にいう選挙の結果に異動を及ぼす虞があるものと認めざるを得ない。

四  右裁決理由中、同記載のとおり公職選挙法(以下単に法という。)第一七五条の二の規定に違反する事実、その他右理由記載の事実については右記載どおりの事実が存したことは争わない。但し同記載の第一投票所の記載台は一〇台ではなく八台で、前回選挙における候補者の氏名等が掲示されていたのはその内の一番北側の記載台である。

五  しかして被告委員会の各裁決は左の諸点において違法である。

1  本件事案は当選争訟の事由に該当するけれども、選挙争訟の事由に該当しない。被告委員会が選挙を無効と裁決したことは違法であつて取消を免れない。

本件事案は、多数の投票記載台中唯一台上に候補者氏名等表一枚の誤掲があつたことにより、之を使用した投票者があつたとすれば、その使用者が認定した被投票者の氏名の記入に困惑を生ぜしめ、或は稀に投票台前において被投票者を選定した者があつたとすれば、被投票者の選定を誤らしめ、結局被投票者に異動を生ぜしめたことがないとは断定できないと考えなければならないとせられ得るに止るものである。而してその誤氏名等表の掲示された投票記載台を使用した投票者の数は後述の様に最高限一四八人であり、具体的に調査すればその誤氏名等表により投票に影響を受けた投票者は絶無であつたかも知れないと考えられるものである。

従つて本件の問題は誤氏名等表に因り幾何数の投票が不当に影響を受けたかの問題に帰着し、結局その有効性に疑の持たれ得る投票数は最高限一四八票であり、或はそれが零であるかも知れないということになる。そしてこの様にその有効性に疑のある投票があつたとしても、之に因つて当選に影響のないことが客観的に数理的に且つ判例と学説に支持せられる計算方法に依つて確定せられ得る当選者が当選者四四名中の最大多数を占めていることは後述の通りである。斯うして本件はその効力に疑のある投票数幾何であるかの問題に過ぎず、当選者中の少数一部誰人が当選に疑があるかどうかの問題に帰着すべきものである。

要之本件事案は選挙そのものの効力を争うべき選挙争訟の問題ではなく、専ら当選者四四名中の特定少数の当選者の当選の効力を争うべき当選争訟の問題である。それにも拘らず被告委員会が之を選挙争訟の問題とし本件選挙そのものを無効と裁決したことは明かに違法であつて原裁決はこの点において取消を免れ得ない。

2  法第二〇九条の二に基づく主張

(一)  本件事案の実体は正しく法第二〇九条の二が規定する所の所謂潜在的無効投票の問題に該当する。本件において実体上潜在的無効投票と看らるべき投票数(本来無効なるべき投票であつてその無効原因が表面に表れない投票で有効投票に算入されたことが推定され、且つその帰属が不明な投票の数)は最高限一四八票、即ち誤つた候補者の氏名等表が貼付せられていた本件投票記載台を投票に際して使用した選挙人の数の最高限に相当する票数である。

尚又八台中の本件一投票記載台内に候補者の誤氏名等表が貼付せられていた四時間余の間に本件内町第一投票所に入場した選挙人全部の投票数一、一八〇票を全部潜在的無効投票であると仮定しても、その両者何れにせよ、若し本件が最初から正当に前記法条に該当する当選無効の問題として処理せられていたとすれば、その結果は別紙第一計算表(潜在的無効投票数を最高限一四八として計算した場合)又は第二計算表(一、一八〇票を全部潜在的無効投票と仮定して計算した場合)の通りになる。

(二)  別紙各計算表において

(1) 「既得票順位」は候補者七〇名各自の既決定得票数による順位を示す。

(2) 「控除すべき票数」は法第二〇九条の二の規定する計算法により、本件潜在的無効投票存在の可能性を生じた第一開票区における候補者各自の得票数から控除せらるべき票数、即ち潜在的無効投票の最高限一四八票(第一計算表の場合)又は一、一八〇票(第二計算表の場合)或は六〇票(第三計算表の場合)に候補者各自の第一開票区における得票数を乗じ、之を全候補者七〇名の第一開票区における得票合計数五三、八六〇を以て除して得た票数である。

「総得票数」は本件選挙における候補者各自についての合計得票数、即ち第一開票区における候補者各自についての得票の合計数である。

(4) 「修正後の総得票数」は各候補者について「第一開票区の得票数」を控除修正した後の得票数と、選挙手続に瑕疵のなかつた第二開票区における当該各候補者の得票数との合計数である。

(5) 「修正順位」は各候補者の「修正後の総得票数」による順位を示す。

(三)  別紙計算の結果各候補者の修正総得票数に基づく修正順位によれば、

(1) 潜在的無効投票数の最高限を一四八票とする場合において、当選に異動を生ずる虞のある当選者は僅かに最下位の第四四位の当選者杉乙巳一名のみである。

(2) 潜在的無効投票数を一、一八〇票と仮定しても之がために当選に異動を生ずる虞のある当選者は依然として最下位の第四四位当選者杉乙巳一名のみであつて他の当選者四三名の当選に異動を生ずる虞は全くない。

(3) 本件において仮に選挙人が投票記載台八台全部を一様に使用したとしてもその一台の平均使用人数は一四八である。そして実際においては誤つた候補者の氏名等の一覧表が貼付せられていた最右端、最も奥の本件投票記載台を使用した選挙人が極めて少く、皆無に近かつたことは多数の証人の証言の一致する所であり、之に反する証言をした者は一人もない。

然し今仮に本件問題の記載台を六〇人に達する多数の選挙人が使用したものと仮定しても(従つて潜在的無効投票が六〇票であつたと仮定しても)、当選者全員四四名中当選に異動を生ずる虞のあるものは絶無である。蓋しこの場合において別紙第三計算表の通り、第四四位当選者杉乙巳の修正総得票数は最上位落選者宮城庄三郎の修正総得票数を超えるからである。

(四)  前記論証の通り若し本件が最初から正当に当選無効の問題として、個々の候補者の当選如何の問題として、即ち法第二〇九条の二が合理的にその処理を定める場合の問題として処理せられていたならば、最悪の事態を想定しても最下位当選者杉乙巳の当選が問題となるのみのことであつた。然るに被告委員会は恩を茲に到さないで当選者四四名全員の当選を無効ならしめる選挙無効の裁決をした。公職選挙法上も、判決例上も、条理上も、被告の裁決が誤であることは疑の余地がない。

よつて第一次的に被告委員会のなした前示各裁決の取消を求める。

3  かりに選挙争訟の問題であるとしても、原裁決記載のとおり誤つて掲示されていた前回選挙における氏名等が、市委員会によつて成規のものと取替えられるまでの間に、すでに一、一八〇人が投票済みであつたことから、一投票記載台について平均一四八人が使用したであろうことが推定される。また当該記載台が投票用紙を交付する場所から最も離れた位置にあつたため、当該記載台の使用者が他の投票記載台の使用者に比べて比較的少数であつたとしても、なお相当数の投票者が当該記載台を使用したと認めるのが至当である。しかし

(一)  問題の誤氏名表掲示の投票記載台を果して幾何数の投票者が使用したか

(二)  一個の投票記載台は二個の投票記載所より成り、誤氏名表が掲示されていたのはその一投票記載所であつたとすれば、仮に数人がこの記載台に入つたとしても、その規定違反投票記載所を現実に使用した投票者が果してあつたかどうか

(三)  又之を使用した投票者で誤氏名等表に影響せられた者が実際にあつたかどうか

此等の事項について被告委員会は何の調査を行つていない。本件問題の投票記載所を投票者が全然使用しなかつたとすれば、又之を使用してもその氏名表が誤であることを発見したとすれば、或は之を使用しても誤氏名等表を投票の参考にせず、投票がその誤氏名等表によつて不当に影響されなかつたとすれば、本件選挙規定の違反は投票者の投票に何等の影響を及ぼさなかつたものであり、選挙の無効を生ずる余地がないことになる。

すなわち本件選挙においては誤氏名等表掲示の過誤があつたにしても選挙の結果に異動を及ぼすおそれのない可能性の存する事情があるから被告委員会はかかる事実を調査考量すべき義務がある。

それ故に被告委員会の前記審理不尽は当然本件裁決の結果に影響を及ぼすべきものであり、この違法な審理に基づく原裁決は維持せらるべき余地がない。

4  原裁決には当選に異動を生ずる虞のない当選者について当選不喪失の裁決をしなかつた違法がある。即ち

(一)  本件誤氏名等表掲示の投票記載所使用の投票者は一四八人以下である。このことは本件選挙において第一開票区に属する内町第一投票所に設置せられた投票記載台は前述のとおり八個であつて、このうち最右端、一番奥に在つた記載台一台の内部に昭和三八年四月の選挙の際に用いられた市議会議員候補者の氏名等一覧表一枚が貼付せられていたもので、この過誤が発見せられた午前一一時二〇分ないし二五分頃迄に男女合計一、一八〇名の投票があつた。しかし投票者の投票経路、記載台の位置、時間的関係から午前の投票者が極めて少数で、右記載台を使用した投票者の数は右一、一八〇名を記載台の数、八で除した一四八名を超えることは絶対あり得ないばかりか、むしろ極めて少数、ないしは皆無ともいうべき状況であつた。他方本件誤氏名等表記載の用紙は他の真正なものに比し、紙色の焼け具合等により、明らかに区別し得るものであり、又文字の書体大きさも異り、容易にその過誤貼付に気付くべき筈である。しかるに投票開始から四時間を経過した後始めて発見されたことはそれまで本記載所を使用した選挙人はなかつたものと推定するのが相当であるともいえる。

(二)  本件可能的無効投票の存在に因つて当選に影響を受けない当選者の存在

(1) 前掲論証により本件誤氏名等表掲示の投票記載所を使用した投票者の存在可能最高限は一四八人であり、従つて本件選挙規定違反に基づく無効投票の存在可能最高限、即ち又得票者の得票の数に影響を及ぼし得る投票(以下影響可能票という)の存在可能最高限は一四八票である。

(2) それ故に本件選挙における最上位落選人宮城庄三郎(その得票数一、五七四票)は本件選挙規定の違反がなかつたとしてもその得票数は一、七二二票(前記得票数一、五七四票に前記影響可能最高限票数一四八票を加えた票数)を超えることはできなかつた者である。

(3) それ故に本件選挙において選挙規定違反のなかつた第二開票区において既に一、七二二票以上の得票を得た左の当選者六名は本件選挙規定違反のためにその当選に影響を受けないことが確実な者である。

山田重則             二、二二一票

板東亀三郎            一、八八六票

三木猛              一、八四七票

国久嘉計             一、八二六票

吉川隆茂             一、八〇二票

舟越縫夫             一、七七〇票

(4) 次に各得票者は本件選挙において選挙規定の違反がなかつたとしても、その各得票数から前記影響可能最高限票数一四八票を控除した残投票(最低限可能得票)を確実に取得した者であり、その残得票数は本件選挙規定の違反と全く関係のない得票数である。それ故にその残得票数が前記最上位落選者宮城庄三郎の可能的最高限得票数一、七二二票を超えた左の当選者一七名は本件選挙規定違反のためにその当選に影響を受けないことが確実な者である。

(当選者氏名)  (得票数) (最低限可能得票数)

一、山田重則    二、六五五票 二、五〇七票

二、松本弘     二、五四五票 二、三九七票

三、鈴江里一    二、四七七票 二、三二九票

四、戸川学     二、四一三票 二、二六五票

五、板東亀三郎   二、二九四票 二、一四六票

六、岡山明義    二、二七〇票 二、一二二票

七、吉川隆茂    二、二〇一票 二、〇五三票

八、三木猛     二、一四二票 一、九九四票

九、広瀬豊     二、〇九六票 一、九四八票

一〇、山瀬博    二、〇四四票 一、八九六票

一一、北仁市    二、〇三三票 一、八八五票

一二、武知清    二、〇一一票 一、八六三票

一三、舟越縫夫   二、〇〇五票 一、八五七票

一四、国久嘉計   一、九四七票 一、七九九票

一五、佐野明    一、九二二票 一、七七四票

一六、楠才之丈   一、八八二票 一、七三四票

一七、坂井積    一、八八〇票 一、七三二票

(5) 次に当選順位第一八位以下の当選者について当選の異動の可能性について検討する。

(イ)  前記計算方法に従い当選順位第一八位以下の当選者の当選順位とその氏名、得票数並に最低限可能得票数を明かにすれば次の通りである。

一八、豊田正雄   一、八六五票 一、七一七票

一九、阿部良隆   一、八六二票 一、七一四票

二〇、吉崎儀一   一、八三〇票 一、六八二票

二一、三木定太郎  一、八二三票 一、六七五票

二二、植木理    一、八二一票 一、六七三票

二三、小山章二   一、八一七票 一、六六九票

二四、清勇正直   一、七九四票 一、六四六票

二五、梶原勝美   一、七八七票 一、六三九票

二六、小倉祐輔   一、七五五票 一、六〇七票

二七、蓮田貞一   一、七三九票 一、五九一票

二八、坂東利一   一、七一四票 一、五六六票

二九、吉永平次郎  一、六九一票 一、五四三票

三〇、鶴岡芳夫   一、六八七票 一、五三九票

三一、吉本幸    一、六八六票 一、五三八票

三二、高瀬豊市   一、六七八票 一、五三〇票

三三、藤井二男   一、六六三票 一、五一五票

三四、武田良雄   一、六六〇票 一、五一二票

三五、出口幸夫   一、六五九票 一、五一一票

三六、井関俊    一、六四八票 一、五〇〇票

三七、米津弘徳   一、六三七票 一、四八九票

三八、平野嘉幸   一、六二七票 一、四七九票

三九、佐々木直太郎 一、六二〇票 一、四七二票

四〇、丸岡富治   一、六一七票 一、四六九票

四一、中村正信   一、五九九票 一、四五一票

四二、米沢勝太郎  一、五九八票 一、四五〇票

四三、中野栄吉   一、五八八票 一、四四〇票

四四、杉乙巳    一、五七五票 一、四二七票

(ロ) 上位落選者の氏名を得票の順位に従つて例挙し、その各得票数と前記計算法によるその可能的最高限得票数を表示すれば次の通りである。

一、宮城庄三郎   一、五七四票 一、七二二票

二、桝田重雄    一、五六七票 一、七一五票

三、大川正夫    一、五五二票 一、七〇〇票

四、大島来     一、五三二票 一、六八〇票

五、中島政雄    一、四八一票 一、六二九票

六、鎌田長夫    一、四一八票 一、五六六票

七、田中寛一    一、四〇六票 一、五五四票

八、泉昇一     一、四〇一票 一、五四九票

九、山岡政一    一、三九六票 一、五四四票

一〇、坂尾茂子   一、三八六票 一、五三四票

一一、前林谷市   一、三八〇票 一、五二八票

一二、槇本貞雄   一、三七七票 一、五二五票

一三、若林芳太郎  一、三三七票 一、四八五票

(ハ) 依つて今当選順位第一八位以下の当選者の前記算出の最低限可能得票数(即ち本件選挙規定の違反によつて影響されなかつた絶対的得票数)と上位落選者の可能的最高限得票数(即ち本件選挙規定の違反がなかつたとすれば得たかも知れなかつた投票の最高限)を比照して当選の順位を按配し規定すれば次の通りになる。氏名の後に(当)と附記した者は当選者、(落)と附記した者は落選者であり、氏名の上の数字は本想定の下における想定当選の順位である。

第一八位以下の想定当選者表

(落選者一人に各一四八票の追加票があり、当選者一人に各一四八票の減票があるものと仮定した場合)

一八、宮城庄三郎(落)       一、七二二票

一九、豊田正雄(当一八位)     一、七一七票

二〇、桝田重雄(落)        一、七一五票

二一、阿部良隆(当一九位)     一、七一四票

二二、大川正夫(落)        一、七〇〇票

二三、吉崎儀一(当二〇位)     一、六八二票

二四、大島来(落)         一、六八〇票

二五、三木定太郎(当二一位)    一、六七五票

二六、植木理(当二二位)      一、六七三票

二七、小山章二(当二三位)     一、六六九票

二八、清勇正直(当二四位)     一、六四六票

二九、梶原勝美(当二五位)     一、六三九票

三〇、中島政雄(落)        一、六二九票

三一、小倉祐輔(当二六位)     一、六〇七票

三二、蓮田貞一(当二七位)     一、五九一票

三三、坂東利一(当二八位)     一、五六六票

三四、鎌田長夫(落)        一、五六六票

三五、田中寛一(落)        一、五五四票

三六、泉昇一(落)         一、五四九票

三七、山岡政一(落)        一、五四四票

三八、吉永平次郎(当二九位)    一、五四三票

三九、鶴岡芳夫(当三〇位)     一、五三九票

四〇、吉本幸(当三一位)      一、五三八票

四一、坂尾茂子(落)        一、五三四票

四三、高瀬豊市(当三二位)     一、五三〇票

四三、前林谷市(落)        一、五二八票

四四、槇本貞雄(落)        一、五二五票

定員外最高位、藤井二男(当三三位) 一、五一五票

以上の配例によれば第一位当選者山田重則より第三二位当選者高瀬豊市までの上位当選者三二名の当選は確定的である。尤も第三三位乃至第四四位の当選者一二名も又本件選挙規定の違反に因つて投票数に影響を受け、この違反がなかつたとすれば更に多数の投票(その最高限一四八票)を得てその当選順位が昇進していたかも知れないことを考慮するならば、前記想定当選者表から下位の一二名を除いたその余の想定当選者中、本件選挙において当選者と決定せられた者、即ち当選順位が蓮田貞一より上位の当選人、詳言すれば第一位の当選人山田重則より第二七位の当選人蓮田貞一までは、本件選挙規定違反の有無に拘らず、絶対にその当選に異動を生じないものと謂わなければならない。

それ故に又原判決が取消された場合において本件選挙が尚無効とせられるときは当選に異動を生ずるおそれのない前記当選者についてその当選を失わないことの判決を求める次第である。

(三) 本件選挙においては本件選挙規定違反事実の有無に拘らず、当選に異動を生ずる虞のない者が前記の如く多数に存在し、尚此の外にも以下論証の如く当選不可動者の存在が明かに推定せられ得る、然るに被告委員会は此等についての審理を総て放置し、唯だ慢然と本件選挙の一部無効を裁決した。原裁決には法第二〇五条第二項の規定又は従来の判決例並に条理に反する重大な審理不尽の違法があつて取消を免れないものと思料する。

(1)  前記(二)における当選不喪失者の存在の論証は本件誤氏名等表掲示の投票記載所の使用者並にその不当影響を受けた投票者の投票の存在可能の最高限数量を確定し之を基礎として(即ち該投票記載所の使用者を一四八人とし、その投票の全部が不当な影響を受けたものと仮定して)行われたものであり、この選挙規定違反事実の有無に拘らない当選不可動者の最少限の存在を証明したものに過ぎない。然し実際においては本件誤氏名等表掲示の投票記載所を使用した投票者数は到底一四八人に達せず、それは極めて少数であつたことが確認せられており、しかもその使用者の投票が誤氏名等表によつて影響される所絶無に近かつたことが推定せられることは前記4(一)において申述した通りである。

(2)  斯うして本件問題の投票所を使用した投票者は一四八人では有り得ず、それは三〇人であつたかも知れないし、一〇人であつたかも知れないし、一人であつたかも知れない。依つて今その使用者が三〇人であつてその内誤氏名等表の影響を受けた者が一〇人であつたものと仮定すれば(或はその使用者が一〇人であつて全部が不当な影響を受けた者と仮定すれば)、そして今当選者に最も不利益な場合を想定して、この選挙規定の違反がなかつたとすればその一〇票の投票が全部最上位の落選者宮城庄三郎に投ぜられたものとし、当選者は各その得票数から該一〇票が失われたものとすれば、

(イ)  当選者の得票中本件選挙規定違反の有無に拘らない最底限得票数は次に掲げる当選順位の当選者の得票において各最下欄記載の通りになる。

四二位 米沢勝太郎 一、五九八票 一、五八八票

四三位 中野栄吉  一、五八八票 一、五七八票

四四位 杉乙巳   一、五七五票 一、五六五票

(ロ)  最上位乃至第三位の落選者の得票数とその可能最高限得票数は次の通りになる。

落一位 宮城庄三郎 一、五七四票 一、五八四票

落二位 桝田重雄  一、五六七票 一、五七七票

落三位 大川正夫  一、五五二票 一、五六二票

(ハ)  前記当選者の最低限得票数と落選者の可能最高限得票数を対比して彼等の間における想定得票の順位と当選の能否を想定すると次の結果になる。左表において氏名の上の数字は想定当選順位、氏名の下の(当)は現実の当選者を、(落)は現実の落選者を示す。

四二位 米沢勝太郎 (四二位当) 一、五八八票

四三位 宮城庄三郎 (最上位落) 一、五八四票

四四位 中野栄吉  (四三位当) 一、五七八票

以下議員定数外

桝田重雄  ( 二位落) 一、五七七票

杉乙巳   (四四位当) 一、五六五票

(ニ)  然し当選者杉乙巳の現実の得票一、五七五票は本件選挙規定違反(候補者の氏名掲載の順序がくじで決定された通りでなかつた)事実がなかつたとすれば更に多くの投票を得て前記想定当選において当選者の中に加わる加能性が絶対にないとは謂い得ない。それ故に右想定が事実であつたとすれば、本件選挙における第四二位の当選者米沢勝太郎を含む上位の当選者合計四二人は本件選挙規定違反の事実の有無が当選に影響を及ぼさない者として、原裁決において当選不喪失の裁決を受け得た筈の者である。

(3)  此の様な事態であるから、原裁決に際しては被告委員会は本件誤氏名等表の掲示せられた投票記載所を使用した投票者の数を調査し、その過誤掲示に因つて不当に影響を受けた、若くは受けたものと考えなければならない投票数を確定する手続を執り、当選不喪失者を確定して原裁決において之を明かにしなければならなかつた。然るに被告委員会は此点について何等の審理をしなかつた。それ故に原裁決は法第二〇五条第二項又は従来の判決例並に条理の命ずる審理を忘却して為されたものであり、その違法の重大性の故に原裁決は所詮取消を免れ得ない。それ故に又原裁決が取消される場合において本件選挙が尚無効とせられるときは当選に異動を生ずる虞のない前記当選者についてその当選を失わないことの判決を求める次第である。

(四) 本件選挙において原裁決摘示の選挙規定違反の有無に拘らず当選に異動を生ずる虞のない当選者が存在することは以下申述の様に計数上極めて容易に判明する。原裁決には法第二〇五条第二項の規定又は従来の判決例並に条理に違反して此等の者の当選不喪失の裁決を遺脱した違法がある。

(1)  本件選挙における投票は次の通り分析せられる。

投票総数

第一開票区          五四、七七七票

第二開票区          六〇、四七四票

合計            一一五、二五一票

無効投票数

第一開票区             九一七票

第二開票区           一、〇二六票

合計              一、九四三票

無効投票の内前回選挙の候補者に対する投票数

第一開票区               九票

第二開票区              二一票

有効投票数

第一開票区          五三、八六〇票

第二開票区          五九、四四八票

合計            一一三、三〇八票

当選者総数四四人の得票総数  八二、八五九票

落選者総数二六人の得票総数  三〇、四四九票

(2)  当選者四四人の得票総数の最高限度数

本件選挙の効力が争われる根本原因は選挙規定の違反に因り、本来当選すべき者が落選する虞を生ずる点に在る。之を具体的に言えば違反がなかつたとすれば落選者の得票数が更に増加し、当選者の得票数が減少する可能性があることに在る。換言すれば本件選挙規定の違反がなかつたとすれば、落選者の得票総数三〇、四四九票に増加を生じ、当選者得票総数八二、八五九票が減少する可能性が在ることに在る。それ故に本件選挙の効力の有無を論ずる観点よりすれば、此の八二、八五九票は本件選挙において当選者四四人の獲得し得る最高限の得票数であつたと謂うことができる。尤も本件選挙規定違反の生じた第一開票区の無効投票中には九票の前回選挙の候補者に対する投票があつたから今仮に之を本件規定違反の結果であるものとし、しかもこの九票が全て当選者の得票と成り得たものと仮定しても、本件選挙における当選者の最高限得票総数は、前記本件法律論議の観点より之を観る限り、八二、八六八票を超過し得なかつたことは明白である。

(3)  当選不動者の得票数

以上論証の通り本件選挙における当選者四四人の最高限得票総数が八二、八六八票であるからには、この総数の当選者総数四四人の平均値一、八八三票強以上即ち一、八八四票以上の投票を得た者は如何なる場合にも当選し得た者であることは数理上明白であり、斯かる当選者は本件選挙規定の違反の事実の有無に拘らずその当選に異動を生じない者である。

(4)  当選不動者の存在

本件選挙において在記当選者一五人は左記の通り当選者の当選を不動ならしめる前記一、八八四票以上の投票を取得した者であり、本件選挙規定の違反の有無に拘らずその当選に異動を生じない者である。

当選不動者とその得票数

一、山田重則  二、六五五票

二、松本弘   二、五四五票

三、鈴江里一  二、四七七票

四、戸川学   二、四一三票

五、板東亀三郎 二、二九四票

六、岡山明義  二、二七〇票

七、吉川隆茂  二、二〇一票

八、三木猛   二、一四二票

九、広瀬豊   二、〇九六票

一〇、山瀬博  二、〇四四票

一一、北仁市  二、〇三三票

一二、武知清  二、〇一一票

一三、舟越縫夫 二、〇〇五票

一四、国久嘉計 一、九四七票

一五、佐野明  一、九二二票

(5)  原裁決の重大な違法の存在

本件選挙規定違反の有無に拘らずその当選に異動を生ずる虞のない者が前記の如く明かに存在するに拘らず、原裁決は本件選挙の一部無効の裁決において前記当選者が当選を失わないことの裁決を遺脱した。原裁決には法第二〇五条第二項又は従来の判決例並に条理に違反があり、此違反は重大であつて原裁決の取消さるべきことは明かである。それ故に又原裁決が取消される場合において、本件選挙が尚無効とせられるときは、当選に異動を生ずる虞のない前記当選者についてその当選を失わないことの判決を求める次第である。

(五) 原裁決は憲法第九三条第二項に違反する。

憲法は地方公共団体住民の自治権を重んじ、第九三条第二項において「地方公共団体の議会の議員はその地方公共団体の住民が直接これを選挙する」ものと定めた。それ故に憲法に基づき法律の定める選挙において当選した議員の資格は何人も之を尊重することを要し、選挙が選挙規定に違反して行われた場合であつても、その違反が当選に影響を及ぼさない当選者については、選挙人たる地方公共団体の住民の総合意思の嚮う所を尊重し、斯かる当選者を無視してはならない。法第二〇五条第二項の「選挙管理委員会又は裁判所がその選挙の一部の無効を決定し、裁決し又は判決する場合において、当選に異動を生ずる虞のない者を区分することができるときは、その者に限り当選を失わない旨をあわせて決定し、裁決し又は判決しなければならない」との規定は前記憲法の法意を例示したものに過ぎない。

原判決は前記のとおり本件選挙においては本件選挙規定違反の有無に拘らず、当選に異動を生ずる虞のない当選者が明確に且つ多数に存在することを認定でき、更に事実の調査をすれば更に多数の不可動の当選者の存在を確認し得る可能性が多大であつたにも拘らず、本件選挙の一部無効の裁決に際して前記不可動の当選者の当選不喪失の裁決を遺脱し且つ此等の点について何の審査もしなかつた。

原裁決は最高の公益規定の一であり従つて最も厳格な強行規定の一である前記法第二〇五条の条項又は従来の判決例並に条理に違反するのみならず、前記憲法の条項に違反する。それ故に原裁決の取消と前記当選者の当選不喪失の調査裁定は最も厳格な強行法規のみならず、憲法の命ずる所と謂わなければならない。

よつて予備的請求趣旨記載の判決を求める次第である。被告代理人らは答弁として次のとおり述べた。

一 原告主張の請求原因事実一ないし四は認める、同五、1、2の事実は争う(但し2、の事実中選挙会決定の得票数(但し少数点以下は省略されている。)は認める。)

同3、について。

およそ選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合とは、選挙の結果に異動を及ぼす虞があることをもつて足りるのであるから、異動を及ぼすことが確実である場合に限らず、選挙の結果に異動を及ぼす客観的な「可能性」があればよいとされている。

被告は、本件選挙において法第一七五条の二の規定違反が選挙の結果に異動を及ぼす「可能性」を持つかどうか審理したところ、つぎのとおりであつた。

(1) 誤氏名等表が掲示されていた間に一、一八〇人が投票していたこと。

(2) 本件選挙の結果、最下位当選人の得票数と最上位落選人の得票数との差が一票であつたこと。

(3) 第一開票区(問題のあつた開票区)において、本件選挙に立候補しなかつた者で前回選挙に立候補していた者に対して投ぜられたものが九票あつたこと。

(4) 問題のあつた記載台(以下「当該記載台」という。)を一人も使用しなかつたということはあり得ないこと。

(5) 内町第一投票所一〇記載台のうち、当該記載台には一枚の誤氏名等表しか貼付されておらず、紙色も選挙人に特に奇異を感じせしめるほど変色していなかつたこと。

(6) 誤氏名等表の影響を受けながら、有効投票となつた投票数を確定することは不可能であること。

これらのことは、本件選挙の結果に異動を及ぼす「可能性」の存在することを証明するに充分である。

同4、(一)ないし(四)について。

同(一)ないし(四)の事実中、各候補者の選挙会決定の得票数(但し少数点以下は省略されている。)および同(四)(1)記載の各票数は認める。

法第二〇五条第三項において、当選に異動を生ずる虞の有無について判断を受ける者の得票数の計算方法がつぎのとおり規定されている。

「前項の場合において、当選に異動を生ずる虞の有無につき判断を受ける者(以下本条中『当該候補者』という。)の得票数(一部無効に係る区域以外の区域における得票数をいう。以下本条中同じ。)から左に掲げる各得票数を各別に差し引いて得た各数の合計数が、選挙の一部無効に係る区域における選挙人の数より多いときは、当該候補者は、当選の異動を生ずる虞のない者とする。

(1) 得票数の最も多いものから順次に数えて、当該選挙において選挙すべき議員の数に相当する数に至る順位の次の順位にある候補者の得票数

(2) 得票数が前号の候補者より多く、当該候補者より少い各候補者のそれぞれの得票数」

この規定により、被告が第二開票区(一部無効に係る区域以外の区域)における最高得票者の山田重則について、その当選を失わない者として区分できるかどうか計算したところ、つぎのとおりであつた。

順位 候補者氏名 第二開票区における得票数 山田重則から各別に差し引いた得票数

一、山田重則   二、二二一

二、板東亀三郎  一、八八六・〇七九   三三四・九二一

三、三木猛    一、八四七・三九四   三七三・六〇六

四、国久嘉計   一、八二六       三九五

五、吉川隆茂   一、八〇二       四一九

六、舟越縫夫   一、七七〇       四五一

七、坂井積    一、五七七       六四四

八、出口幸夫   一、四一九       八〇二

九、蓮田貞一   一、三八一       八四〇

一〇、井関俊   一、三六三       八五八

一一、吉本幸   一、三一七       九〇四

一二、宮城庄三郎 一、二六七       九五四

一三、藤井二男  一、二五二       九六九

一四、桝田重雄  一、二四一       九八〇

一五、大島来   一、二〇五     一、〇一六

一六、泉昇一   一、一九九     一、〇二二

一七、吉永平次郎 一、一三五     一、〇八六

一八、鎌田長夫  一、一二八     一、〇九三

一九、米津弘徳  一、一一三     一、一〇八

二〇、中野栄吉  一、〇九六     一、一二五

二一、梶原勝美  一、〇八九     一、一三二

二二、中島政雄  一、〇八四     一、一三七

二三、中村正信  一、〇七六     一、一四五

二四、北仁市   一、〇五九     一、一六二

二五、田中寛一  一、〇四〇     一、一八一

二六、鈴江里一  一、〇二四     一、一九七

二七、米沢勝太郎   九八九     一、二三二

二八、丸岡富治    九八〇     一、二四一

二九、里見武雄    九六八     一、二五三

三〇、若林芳太郎   九六一     一、二六〇

三一、槇本貞雄    九四三     一、二七八

三二、佐野明     九二八     一、二九三

三三、河野其二    九一九     一、三〇二

三四、高瀬豊市    八一八     一、四〇三

三五、豊田正雄    七九八     一、四二三

三六、坂東利一    七四三・九二〇 一、四七七・〇八〇

三七、武田良雄    七二三     一、四九八

三八、平野嘉幸    七一四     一、五〇七

三九、小倉祐輔    七〇六     一、五一五

四〇、佐々木直太郎  六八三     一、五三八

四一、武知清     六五八     一、五六三

四二、清勇正直    六四一     一、五八〇

四三、大川正夫    六三八     一、五八三

四四、岡山明義    六二六     一、五九五

次山瀬博       六一六     一、六〇五

計 四九、四七四・六〇七

山田重則から各別に差し引いた得票数の合計四九、四七四・六〇七は一部無効に係る選挙人の数六六、二一一より一六、七三六・三九三少い。

この計算でも明らかなように、第二開票区における最高得票者である山田重則についてさえ、法第二〇五条第二項及び第三項の規定により当選を失わない者として区分することはできなかつた。従つて本件選挙の全当選者が当選を失うことは数理上明白である。にもかかわらず、この点に関しての原告らの主張は、要するに法第二〇五条第三項の規定を敢えて無視した独自の見解であり、およそ認めることはできない。

同4、(五)について。

前述のとおり、本件選挙が一部無効とされること及び当選に異動を生ずる虞のない者を区分することができないことは、法第二〇五条の規定により明白であり、いわんや憲法第九三条第二項に違反するものではない。

従つて原告らの主張は認めることはできない。

二 被告の主張

1、法第一七五条の二の規定による氏名等の掲示の意義および重要性については、被告の裁決の理由の四項および五項において述べられているとおりである。

法第一七三条の規定が昭和三七年法律第一一二号により改正され、市議会議員の選挙については同条の氏名等の掲示が廃止されたので、現行では、一七五条の二の氏名等の掲示は唯一の選挙公営制度であり、その重要性は一段と大きくなつているのである。この氏名等の掲示において、各候補者が不平等の取扱いを受けることは、選挙管理上の重大な瑕疵である。本件においては、一名の候補者の氏名、党派、ふりがなに関する瑕疵ではなく、三九名の候補者の氏名の脱落、一一名の候補者の党派の誤記、二三名の候補者でない者の氏名等の掲示が行われたものであるから、氏名等の掲示に関する瑕疵としてはいまだ類のない大なるものであり、これにより選挙の自由公正が阻害されるおそれがないものとは到底なし得ない。

一記載台の掲示であるとしても、当落の差数は僅かに一票であるから、本件記載台の使用者一名の存在により選挙の結果に異動を生ずるおそれがあることとなる。一名以上の投票者があつたことは投票者総数一、一八〇名にかんがみ自明のことである。誤つた掲示の行われていた間の投票者は、午前七時から四時間余の間に一、一八〇人で、本件投票所における当日投票者三、一二三名(投票者総数三、一七九名、うち不在者投票者五六名)の三分の一強に当る数である。かりに、平均すれば、一記載台当り一一八名の投票者、一時間当り約三〇〇人の投票者ということになり、これによつても相当数の選挙人が本件記載台を使用したことが認められる。そのうえ、投票者は時間的に平均して投票所を訪れるものではなく、午前七時から八時前後の出勤の時間に殺到するものであるし、乙第九号証の示すように満席でなくても本件記載台の使用者は多数であると認められる。

また、本件記載台を使用しない投票者でも、本件記載台の氏名等表を見た者がないとは断定し得ず、このような選挙人についても本件誤氏名等表により誤つた認識を抱かしめた可能性が全く存しないことを断定することはできないのである。

したがつて、本件の瑕疵に関しては、一、一八〇名の投票者中その影響を受けたかも知れない投票者の数の限界を明らかにすることは、本来、不可能なことであり、また、その数を明らかにする必要もない。

原告らの前記4、の主張はいわゆる人的一部無効の見解であるが、人的一部無効は法第二〇五条各項の文理上等からも認め得ない。同条は地域的一部無効のみを認める前提に立つているものである。ただ代理投票、不在者投票の手続の違法の如く個々の投票手続に関する違法で特定少数の違法管理の投票が存する場合にはこれを当選争訟と解されているが、本件の違法にあつては投票者数一、一八〇名が違法の影響の最大限であつて、この中の如何なる者が、いかなる影響を受けその影響のために、いかなる投票が行われ、各候補者の得票数の増減にいかなる変動があり得るかにつき、これを明らかにする方途はないのであるから、このような不確定の要素に基づいて当選を失う可能性のある者とない者とを区分することは許されない。

2、しかして原告ら主張のように内町第一投票所の市議会議員選挙の八箇所の記載所のうち一番北側の記載所に前回選挙(昭和三八年四月三〇日行われた徳島市議会議員一般選挙)に使用された候補者の氏名等の掲示表が掲示されており、右は法第一七五条の二の規定に違反するものであり、その具体的内容は次のとおり重大な瑕疵である。

(一) 本件選挙の候補者七〇人のうち、次の者(三九人)の氏名等が脱落していたこと。

無所属   児島義行  日本共産党 平野嘉幸

無所属   浜田義雄  日本社会党 坂尾茂子

無所属   槇本貞雄  無所属   高瀬豊市

無所属   広瀬豊   自由民主党 阿部良隆

無所属   梶原勝美  無所属   三木猛

無所属   山瀬博   日本社会党 板東亀三郎

無所属   田中寛一  無所属   泉昇一

無所属   蓮田貞一  無所属   二階久吉

無所属   中村正信  日本社会党 坂東利一

無所属   久米タキ  無所属   吉崎儀一

無所属   河野其二  無所属   戸川学

無所属   岡山明義  無所属   吉川隆茂

日本社会党 宮城庄三郎 無所属   武田良雄

無所属   柳生照夫  無所属   江島芳雄

公明党   小山章二  無所属   若林芳太郎

無所属   真鍋通康  日本共産党 福田幸雄

自由民主党 山田重則  公明党   佐野明

無所属   米津弘徳  無所属   佐次喜之助

無所属   土橋利夫  無所属   前林谷市

無所属   小倉祐輔

(二) 本件選挙の候補者七〇人のうち、次の者(一一人)の所属党派が誤つて掲示されていたこと。

本件選挙の党派 誤つて掲示された党派 氏名

自由民主党       無所属    納田文三郎

自由民主党       無所属    中野栄吉

自由民主党       無所属    楠才之丈

自由民主党       無所属    佐々木直太郎

自由民主党       無所属    坂井積

自由民主党       無所属    米沢勝太郎

自由民主党       無所属    舟越縫夫

公明党         公明政治連盟 吉本幸

公明党         公明政治連盟 国久嘉計

公明党         公明政治連盟 植木理

民主社会党       無所属    武知清

(三) 本件選挙の候補者でない者(前回選挙における候補者で、本件選挙においては立候補していない者二三人)の氏名等が次のとおり掲示されていたこと。

自由民主党  鈴江良明 無所属   岩花藤一

無所属    林茂   民主社会党 岡内淑夫

無所属    藤崎仲一 無所属   東義八

日本共産党  竹谷輝雄 無所属   加本道治

無所属    三木光一 無所属   水持安太郎

無所属    梶浦源一 無所属   岡田亀太郎

無所属    島田武雄 日本社会党 和久博

無所属    篠原義平 自由民主党 岩田幸男

無所属    酒井晃  無所属   島野忠三

無所属    長野定治 無所属   宇野文雄

公明政治連盟 上地忠一 無所属   早淵幸定

無所属    小林克己

(四) 氏名等の掲示の順序は、本件選挙における開票区ごとにくじで定められた順序とことごとく異なつていたこと。

なお、内町第一投票所においては、各投票記載所に候補者の氏名等の掲示が行われたほかは投票所内に氏名等の掲示は行われなかつた。

3、そのため選挙の結果に異動を及ぼすおそれがある。即ち

(一) 氏名等の掲示の誤りが発見されるまでの投票者は、男六〇四名、女五七六名合計一、一八〇名である。

本件投票所の選挙当日の有権者数は三、九九一名、選挙当日投票所で投票した者の総数は三、一二三名である。

(乙七号証)

右の外前記一に記載の事実がある。

最下位当選人杉乙巳は、一、五七五票で、最上位落選人は宮城庄三郎、一、五七四票である。

(二) 本件の記載所を選挙人が一人も使用しなかつたという特別の事情、および誤つた氏名等の掲示を選挙人が一人も見なかつたという特別の事情はない。

よつて、本件の誤つた氏名等の掲示により投票内容に影響を受けた選挙人は皆無であると断定することはできない。

(三) 相当多数の選挙人が本件記載所を使用し、誤つた氏名等の掲示を見たものと認められる。

(1) 一、一八〇名の選挙人が投票している。

(2) 投票所は、午前七時から八時頃の出勤時間の前後は混雑するのが通例である。

(3) 本件投票所内の「市議」というビラは、記載台の右から二番目の台の上辺りで、記載所八ケ所の中央より右側に貼られている。選挙人は、このビラに引つばられて、本件記載所を含む右の方の二台の記載台(三箇の記載所)の方にも歩を運ぶものと認められる。

(4) 選挙人は、なるべく他の人に見られたくないという気持から、隣り同志隣接して投票の記載をしないで、間隔をおいて、記載所を使用する心理を有する。この心理は更に投票者を端の方の記載所に向わせることにもなる。

本件投票所の記載所は八ケ所であるが三台は左右二ケ所に使用されるので、一台の記載台を二名で使用する場合には、すぐ隣り合せに相接することになる。そのうえ中央の仕切り板は左右に動いて不安定である。

このような状況および前記の投票者の一般的心理から、空いていれば、投票者は、隣りに相接して記載所を使用することをさけ、間隔をおいて離れた記載所を使用するのが通例である。

まして、当日は朝から雨が降つていて選挙人は傘を持つていたのであるから、相隣接して記載をするより、間隔をおいて記載所を使用する方が、一層便利である。

以上のことは、たまたま撮影された乙第九号証の写真が、空いている時でも、投票者はバラバラに間隔をおいて記載所を使用していることを示していること並に、一選挙人が氏名等の掲示の誤りを発見した時間は投票所は比較的空いている時であつたが(村崎証人の供述二三枚目裏)その頃右選挙人は一番右端の本件記載所を使用しようとしたことからも明らかである。

(5) また、市選挙管理委員会の予定では、三台、六記載所であつたところ投票管理者の選挙人の出足にかんがみ不足であるとの見込みから、五台、一〇記載所を設けることにしたが、結局五台、八記載所しか設けられなかつたという事情がある。

(6) 本件投票所の関係者は、本件瑕疵の直接の責任者であるから、通常の心理として、自分に都合のよいことは憶えているが、が都合の悪いことは忘れ、自分の都合のよいように理解しようとする傾向があるうえ、本件においては市議会議員全員の当選が無効となるという結果を生ずるので、自分らの不注意について感ずる責任感は一層大きいから、右の傾向は益々大きいものがあるというべきである。加えて、傍聴席に市議会議員が控えていては市の職員としての議員に対する遠慮も加わり、この面からの心理的圧迫を拭い去ることもできない。よつて本件投票所関係者については充分な供述を期待することはできないといわなければならない。

しかるに、右関係者も、本件記載所を何人も使用しなかつたとは述べていない。せいぜい、他の記載所に比べ少数であつたとか、仕事のひまな、投票のすいている時に見たら投票者は二、三名で、右の方の記載所は使われていなかつたということ、もしくは遠くから見ていて皆無に近かつたという程度である。

(7) 以上の各状況から、本件投票記載所を使用した者は決して僅少ではなく、相当数に上るものと認められる。

しかして法第二〇五条第二、三項により当選に異動を生ずる虞のない者を区分し得ないことは前記のとおりである。

よつて原告らの主張は何れも理由がない。

(証拠省略)

理由

一  原告ら主張の一ないし四の事実は当事者間に争がなく、氏名等表掲示の誤りの具体的内容が被告主張二2、記載のとおりであることは原告らの明らかに争わないところであり、成立に争のない乙第一、二号証に徴しても明白なところである。

しかして、右掲示が法第一七五条の二の規定に違反することは論をまたない。

二  本件違反に基づく氏名等表示の影響を受けた投票数について。

本件投票記載所のある内町第一投票所において本件違法な掲示が発見されるまでに同投票区の有権者数三、九九一人のうち一、一八〇人が投票ずみであつたことは当事者間に争がない。

原告らはその主張の事由により、右過誤の掲示ある記載所を使用した人数は記載所の数により平分した最高一四八人を出ないと主張する。

証人村崎輝信、原田安孝、渡辺英子、弘田振一、黒川正明、笠井昭子、小寺侃、堀内勇の各証言と検証の結果によれば、右記載所は投票所の順路の一番奥にあることが認められ、従つてまた右記載所を使用した選挙人は他の記載所を使用した選挙人に比し極めて少数であつた趣旨の供述がみられる。

しかしこれらの証言のみを以て本件誤氏名等表が掲示されていた間に同記載所を使用した選挙人の数を記載所の数で平分した一四八人以下であると断定する正確な根拠、資料とすることは躊躇せざるを得ず、他方右記載所を使用しなかつた者で、誤氏名等表を閲覧した者が皆無と断定すべき根拠もないこと等を考慮すると、右誤氏名等表により影響を受けた投票者の数は最高一、一八〇名を限度として確定し得ないものといわねばならない。

三  よつて以下まず右違法が選挙の効力に関する違法に該当せず、当選無効の原因となるに過ぎない、との原告らの主張について検討する。

そもそも選挙の効力に関する違法とは選挙の規定に違反する事実があり、かつそれが選挙の結果に異動を及ぼす虞があるときを謂うものであることは法第二〇五条第一項の規定に照らし明らかであり、他方当選無効の原因については成法上の明文の規定はないが、選挙自体の有効なことを前提として、選挙会または選挙管理委員会の当選人決定に誤りがある場合をいうものと解する。

もつとも個々の案件において裁判例が必ずしもこの原則を一貫しているやについては疑問が存するが、前記のように本件誤氏名等表の掲示が法第一七五条の二の規定に違反するものであり、右違反が選挙の管理執行手続の違反であり、法第二〇五条にいわゆる選挙の規定に違反する場合に該るものと解すべきは多言を要しない。(最高裁判所昭和三三年五月九日判決集第一二巻七号参照)

よつて右違反が当選無効の原因となるに過ぎないとの原告らの主張は採用し得ない。

四  法第二〇九条の二に関する主張について。

原告らは本件誤氏名等表により影響を受けた投票をもつて右法条にいう潜在的無効投票に該当する、旨主張する。

しかし潜在的無効投票として、同法条により処理されるものは選挙当日選挙権を有しない者の投票その他本来無効なるべき投票であつてその無効原因が表面に表れない投票をいうものであり、本件原告ら主張の投票は、本来は有効なるべき投票であり、選挙執行者の手続の違法により選挙人の自由公正な意思表示がなされたか否かについて疑問を生じるに至つたものに過ぎないから、これを以て潜在的無効投票ということはできない。

五1、原告らは本件過誤により必ずしも選挙の結果に異動を生ずる虞れがあるといえない事情が存在する可能性があるからこの点を審理しなかつた原裁決は違法であるというが、法第一七五条の二の規定が選挙の当日、投票所内の投票を記載する場所、その他適当な箇所に公職の候補者の氏名及び党派別の掲示を命じているのは、選挙の当日、選挙人が候補者氏名を記載するに際し候補者の氏名、所属政党等を再確認する機会を与えるためと解され、選挙人の意思決定は複雑微妙な問題であるから、右誤氏名等表の掲示が、しかも前記のように多くの点で相違する前回選挙の氏名等表であり、これにより選挙人の意思決定に影響があつたか否かは一層微妙な問題であり、これを事後において確定することは不可能なところといわざるを得ない。

そして右氏名等表の掲示の趣旨誤氏名等表の内容に照らしても、本件誤氏名等表の掲示により影響を受けた選挙人が皆無であるとは到底考え得ないところであるから、この点に関する原告らの主張も理由がない。

2、当選不喪失の裁決をしなかつた違法があるとの主張について。

原告らは誤氏名等表に影響された投票数を最高一四八票とし、或いは一〇票として、何れも主張のように当選を失わない者があることを主張し、また本件選挙の当選者総数の得票総数から算出した得票数を基準として当選不喪失者を挙げこれらにつき当選を失わない旨の裁決をすべきであつたと主張する。

しかし原告らが縷々主張するところは結局人的一部無効の主張に帰し、選挙争訟においていわゆる人的一部無効はわが現行法の解釈として採用し得ないところで、法第二〇五条第二、三項の規定による当選不喪失者の区分はいわゆる地域的一部無効の場合の下における人的の一部無効を認めたものに過ぎない。

しかして同条項による人的一部無効の適用を受け、その当選を失わない旨宣しなければならない場合とは、同条項の規定による計算方法により算出した結果によるもので、一部無効の地域において選挙をやり直してもなおかつ当選を失う虞のない者を指すもので、違法地域における再選挙を前提とする計算に外ならない。

しかして成立に争のない甲第四号証、乙第八号証に照し右計算方法によれば本件選挙の当選者中、当選を失う虞のない者は皆無であることは被告主張のとおりなること計数上明白である。

よつてこの点に関する原告ら主張も採用するに由がない。

3、結局本件選挙の規定違反の存した間に一、一八〇人が投票し、その違法の影響は最高一、一八〇名を限度として確定し難いこと、そして本件選挙における最高位落選者と、最下位当選者との間の票差は僅に一票に過ぎないことに照し、本件違反がなかつたとすれば選挙の結果に異動を生ずる可能性の存したことは明白であるから、本件選挙中本件違反の存した第一開票区の区域における選挙は無効であるという外なく、法第二〇五条第二、三項に照し、本件選挙において当選を失わない者を区分し得ないことは前述のとおりであるから、何人についても当選を失わない旨を宣すべきではない。

4、原告らの憲法違反の主張も帰するところ法第二〇五条第二、三項による当選不喪失の裁決をしなかつたことを非難するものであつて本件において右条項による裁決をなし得ないことは前述のとおりであるから、この点の原告らの主張も理由がない。

以上の説示により被告委員会のなした各裁決には原告ら主張のような違法のないことは明らかである。

六  そうすると、結局本件選挙は第一開票区の地域において無効であり、原告らの本訴請求は理由がないからこれを棄却するものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 橘盛行 合田得太郎 奥村正策)

(別紙省略)

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